mimiriのブログ~要領悪くても終わればいいさ~

アラフォーで子ども2人出産し、日々の思うことを書いてます

【読書ノート】愛なき世界

いやー、おもしろかった。三浦しをん、やっぱり好きだわー。

 

これも例によって夫が図書館で予約していたが、夫よりも先に読んでしまった。

 

日本植物学会賞特別賞受賞作品、なんだそうだ。文芸の賞ではなくて、植物学会の特別賞。

なるほど、そうよね。と、思う。植物の研究者たちのやってること、植物の研究をどんな好奇心に突き動かされてやっているのがストンと読める内容だった。取材力もすごい。これで植物に興味を持つ若者がでてきたら、植物学会としては儲けものでもある。

 

もう少し、ちゃんと生物の授業うけとけばよかった。これが、読みながらの感想であった。そうすれば、この小説の世界をもっと楽しめただろう。

 

「葉や茎は光を求めて伸びるのに、なぜ根は光を避けるように伸びるのか」

いや、それはそういうもんだからでしょ。

とは思わないんだろうな、研究している人は。

 

「うまくいくかいかないかわからないものは、実験だけで充分」と恋愛バッサリな大学院生女子・本村さんのセリフに、いちおう数々恋愛してきた今では「名言だな」と思える。そういう人生もアリだったかもしれない、と考えてみる。煩わしいよね、人間関係って。恋愛はとくに。ロクでもないオトコと過ごす時間ってホントにムダよね。

そういえば「遊園地?動物園?何が楽しいの?」と言っていたオトコと付き合ったことがある。まぁもっとも私も遊園地や動物園には興味ないし、遊園地でも工学系研究者目線で楽しめる人もいるだろうし、動物園はいうまでもなくそういう研究者目線で楽しむ人もいるだろう。要は、そのオトコとは合わなかっただけ。私もそのオトコから見れば、ロクでもないオンナだったのだろう。

 

そんなことを思い出しながら、植物学に没頭する自分を想像してみる。いや、植物学はたぶん私には無理だな、と即座に思う。ちまちましたちっちゃな種を取り出して、交配させて…どれがどれでどうなったか、わけわからんくなって実験データがあやふやになるのは目に見えている。「スタップ細胞は、あります!!」と涙ながらに言っていた研究者さんの顔を思い出す。同じに考えてしまってはさすがに失礼だろうけど。

 

植物を育てるのがうまい人が「緑の指を持っている」と書かれていた。一般的な言い方なのか、三浦しをんが名付けたのか、と思って調べたら、英語でgreen fingersとあった。あいにく、私は母の日にもらった花の、花瓶の水を取り替えることを「仕事がひとつ増えた」と感じてしまうので、当然「緑の指」など持っていない。本村さんも「緑の指」は持っていないらしいから、そこは求められる素質ではないようだけど。

 

思えば、実家の裏庭にいつだったかキウイフルーツの苗を植えた。たしか小学生の頃だった。最初は実がなった。が、ならなくなってしまって母が花屋に相談した。結果は、「オスがメスになってしまった」だか「メスがオスになってしまった」だか、なんかそんな話だった。わけわからん、としか思わなかったけど、そこで「なんでなんで!?」と思って突き詰めていったら、人生は間違いなく変わっていた。

 

それにしても、植物の世界はおもしろい。

春になったら花が咲く。誰にも教えられてないのに。私なんて、やることメモを書いていても忘れるのに。それって、すごいことだと感心する。

 

いまさら何を、という感想だけど、スマホは便利で、知らないものをすぐに調べられる、というのも改めて思い知らされた。植物の名前なんて知らないものだらけなので、写真つきで調べられるのはホントに便利。

 

モノフィレア、ってなんだ?と調べたら、なんと東大理学部の方が「無限成長する葉の不思議な性質を発見」というタイトルで、モノフィレアの遺伝子について、性質を突き止める実験に成功したらしい記事が一番上にでてきた。2020年8月、東大理学部広報のプレスである。

発表したのはあきらかに女性のお名前。論文には、この小説の巻末に載っていた取材協力先の研究室の教授の名前も。本村さんは実在したのか!!と、当たり前だけど感動してしまった。本当にこういうことを研究している女性がいる。わー、すごいすごい。

 

顔より大きい葉っぱなのだそうだ。モノフィレアは。しかも1枚しか葉っぱをつけない植物なんだそうだ。多くの植物は葉っぱの大きさに制御がかかるシステムになっていて、バカでかいモミジができたりはしないことになっているけど、モノフィレアはその制御システムがないのだそうだ。えぇぇ。

 

どの遺伝子に変更が生じると、葉っぱのサイズに制御が働かなくなるのか。シロイヌナズナ、という研究に使いやすい植物の遺伝子研究をしている本村さんは考える。自分のやっているシロイヌナズナの遺伝子研究が想定通りに確認できたら、モノフィレアの遺伝子も調べたい、と本村さんは考えている。

この小説が読売新聞の朝刊で連載されていたのは2016年から2017年にかけてのこと。取材したのはもっと前のはずだから、取材してから5年後くらいで本当にやっちゃった人がいるってことだ。知ってますか、三浦しをんさん!?いや、当然知ってるだろうな、今の時点でもその論文は2年も前だし。

 

読み終わって、余韻にひたりながら本をなでた。子どもたちと一緒に寝たが本の続きが気になっていたのか珍しく夜中に起きてしまい、ぶっ通しで読んだ。明け方前だった。

よく見ると光るように描かれた植物たち。浮かび上がってくる実験器具。装丁がじつに美しい。

 

あらためて、内容を思い返してみる。

 

お隣のイモを研究している研究室のお芋掘り手伝いの場面で、「紅はるか」と「紅あずま」の食べ比べがでてきた。うちの2歳児はベジタリアンで、「紅はるか」のふかし芋の、皮が好物である。イモの皮って。戦時中か?という好みなのはさておき、「紅はるか」なのだ。「紅あずま」はモソモソしているのか好きでないらしい。食べ比べてみて、私もすっかりねっとりしている「紅はるか」派になった。

 

増殖し続ける夫の書籍が本棚に入り切らず床に散乱しているのを見て、本村さんの研究室の教授かオマエは、と思ったりしている。そう思うと、なんだかもう諦めの境地になってきた。

 

つながっているんだ。小説の世界は、自分の生活にも。

広がっているんだ。小説の世界で、自分の生活も。

 

そんなことに改めて気づかせてもらった。楽しかった。三浦しをん、やっぱり好きだし、この取材力と文章力、心底すごいなぁ。

 

この小説にでてくる人たちのキャラも素晴らしい。私、好き。こういう人たち。もちろん、フィクションなのだけれど。

あぁ、本村さんとお友達になりたい。結婚も恋愛も興味がなく、植物に人生を捧げる女子。それでいて、人の気持ちも寄り添える女子。

 

もしも将来、自分の子どもが学校でなじめないと泣いて帰ってきたら、言ってやろう。

今いるところだけが全てじゃない。

世の中は広い。

世界のどこかに、必ずキミの感性や関心に近いものを持っている人がいる。

探そう。そういう人は必ずいる。

そして、キミにしかできないこともきっとある。

探そう。お母さんはキミがそれを見つけることを心から楽しみにしている。

 

そして、この本をそーっと置こう。

 

そんなことを考えて、ふと部屋のわきを見たら、母の日にもらったシャクヤクの花びらが散っていた。水はちゃんと取り替えていたのに、2日で散った。一方で、バラはまだまだ咲いている。シャクヤクのほうがあとから咲いたのに先に散ってしまった。

 

なんで?

2歳児に聞かれるところを想像する。

そういうものなんだよ。と、私は答えるだろう。

 

いやいや、そうなんだけど。思い直す。そうなんだけどさ。

 

なんでだろうね。おもしろいことに気づいたね。

そう言おう。

 

知りたくなってきた。私も、花はなぜ咲くのか。

知りたいことは世の中にたくさんある。まだまだ、死ねない。

 

三浦しをん

#愛なき世界